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応力と応力テンソル

まず応力について考える.一般に応力はそれが作用する面の向きに依存する.図2.3のように時刻$ t$において,流体中の点$ \bm{r}$で単位法線ベクトル$ \bm{n}$と面積$ \delta S$を持つ面を考える.この面を通じて面の表側($ \bm{n}$が向いている側を表とする)の流体が裏側の流体に及ぼす力を,

$\displaystyle \bm{T}(\bm{n},\bm{r},t)\delta S$ (3.5)

と書き,単位面積当たりの力 $ \bm{T}(\bm{n},\bm{r},t)$を時刻$ t$,点$ \bm{r}$においてその面に作用する応力(stress)という. $ \bm{T}(\bm{n},\bm{r},t)$$ \bm{n}$方向成分は法線応力(normal stress),接平面に平行な成分は接線応力(tangential stress)と呼ばれる.また面の裏側の流体が表側の流体に及ぼす応力は, $ \bm{T}(-\bm{n},\bm{r},t)$と表される.したがって,作用反作用の法則より,

$\displaystyle \bm{T}(\bm{n},\bm{r},t) = - \bm{T}(- \bm{n},\bm{r},t)$ (3.6)

が成り立つ.ゆえに,法線応力が正ならばその面を通じて流体は引っ張り合い,負ならば押し合っていることになる.以後, $ \bm{T}(\bm{n},\bm{r},t)$$ \bm{r}$$ t$を省略する.

図 2.3: 面の向きと応力
Image fig2_3
図 2.4: 座標軸に垂直な3つの面を持つ微小な四面体
Image fig2_4
次に,図2.4の微小な四面体にはたらく力のつり合いを考える.この四面体にはたらく力は,慣性力,外力,4つの面を通じて作用する面積力である.慣性力と外力は体積力であり,四面体の長さのスケールを$ \delta l$とすると, $ O((\delta l)^3)$である.これに対して面積力は $ O((\delta l)^2)$であるから, $ \delta l \to 0$のときには体積力の寄与が無視できて,四面体の4つの面に作用する面積力のつり合いの式として,

$\displaystyle \bm{T}(\bm{n})\delta S + \sum_{j=1}^{3}\bm{T}(-\bm{e}_j)\delta S_j = 0$ (3.7)

を得る.ここで,$ \delta S$ $ \bigtriangleup P_1P_2P_3$の面積, $ \delta S_j$$ x_j$軸に垂直な面の面積である.また,$ \bm{e}_j$$ x_j$軸方向の単位ベクトルである.ベクトル$ \bm{T}$$ x_i$成分を$ T_i$と表す.すなわち,

$\displaystyle \bm{T} = (T_1,T_2,T_3)
$

と書け,

$\displaystyle \bm{T}=T_1\bm{e}_1 + T_2\bm{e}_2 + T_3\bm{e}_3 = \sum_{j=1}^3T_j\bm{e}_j$ (3.8)

ということである.さらに,(2.8)にアインシュタインの縮約記法を用いれば,

$\displaystyle \bm{T} = T_j\bm{e}_j$ (3.9)

と表される.同様の記法を(2.7)に使えば,次のように書ける.

$\displaystyle \bm{T}(\bm{n})\delta S + \bm{T}(-\bm{e}_j)\delta S_j = 0$ (3.10)

$ \delta S_j = (\bm{n}\cdot \bm{e}_j)\delta S$であることと,及び(2.6)を用いれば,(2.7)より,

$\displaystyle \bm{T}(\bm{n}) = \bm{T}(\bm{e}_j)(\bm{n} \cdot \bm{e}_j)$ (3.11)

を得る.したがって,3つの座標軸に垂直な面に作用する応力 $ \bm{T}(\bm{e}_1)$ $ \bm{T}(\bm{e}_2)$ $ \bm{T}(\bm{e}_3)$がわかれば任意の面に作用する応力 $ \bm{T}(\bm{n})$を知ることができる.

$\displaystyle \tau_{ij} = T_i(\bm{e}_j)$ (3.12)

と定義すれば, $ \bm{n} \cdot \bm{e}_j = n_j$なので,(2.11)は,

$\displaystyle T_i(\bm{n}) = \tau_{ij}n_j$ (3.13)

と書ける.この9個の量$ \tau_{ij}$を成分とする量を応力テンソル(stress tensor)という.応力テンソルの特徴は以下のようになる.

いま,ある法線ベクトル$ \bm{n}$を持つ面に作用する応力が,

$\displaystyle \bm{T}(\bm{n}) = \lambda \bm{n}$ (3.14)

を満たすとする.このとき,その面には大きさ $ \vert\lambda \vert$の法線応力しか作用しない.(2.12)を用れば,(2.14)は,

$\displaystyle \tau_{ij}n_{j} = \lambda \delta_{ij}n_{j}$ (3.15)

となる.ここで $ \delta _{ij}$はクロネッカーのデルタ(Kronecker delta)であり,$ i = j$のとき0で$ i \neq j$のとき1である.(2.15)は対称行列$ \tau_{ij}$の固有値問題であり,対称行列の性質から重複度も数えれば3個の実固有値 $ \tau^{\prime}_{1}$ $ \tau^{\prime}_{2}$ $ \tau^{\prime}_{3}$が存在する.また,その互いに異なる固有値に対応する固有ベクトル $ \bm{e}^{\prime}_1$ $ \bm{e}^{\prime}_2$ $ \bm{e}^{\prime}_3$は3次元ベクトル空間の直交基底となる.よって,これらの固有ベクトルを新しい直角座標系 $ x^{\prime }_{1}$ $ x^{\prime }_{2}$ $ x^{\prime }_{3}$の基底に選べば,座標軸に垂直な面にはそれぞれ法線応力 $ \tau^{\prime}_{1}$ $ \tau^{\prime}_{2}$ $ \tau^{\prime}_{3}$のみが作用するので,新しい系での応力テンソルの表示行列は,

$\displaystyle {\rm\; diag}(\tau^{\prime }_{1}, \tau^{\prime }_{2}, \tau^{\prime }_{3})$ (3.16)

となる.ここで,diag$ (a,b,c)$$ a,b,c$を対角成分とする対角行列を意味する.この $ \tau^{\prime}_{1}$ $ \tau^{\prime}_{2}$ $ \tau^{\prime}_{3}$主応力(principal stress)といい,また対応する新しい座標軸を応力テンソルの主軸(principal axes of stress tensor)という.

固有値はスカラー量なので回転に対しても不変である.よって,固有多項式も回転に対して不変であるはずであり,固有方程式の2次の項の係数に対応する行列$ \tau_{ij}$のトレースも直角座標系の回転に対して不変である.すなわち,

$\displaystyle \tau_{ii} \equiv \tau_{11} + \tau_{22} + \tau_{33} = \tau^{\prime}_{1} + \tau^{\prime}_{2} + \tau^{\prime}_{3}$ (3.17)

が成り立つ.また,主軸系においては,法線 $ (n^{\prime}_{1},  n^{\prime}_{2},   n^{\prime}_{3})$を持つ面要素を通して作用する応力は,

$\displaystyle (\tau^{\prime}_{1} n^{\prime}_{1},  \tau^{\prime}_{2} n^{\prime}_{2},  \tau^{\prime}_{3} n^{\prime}_{3})
$ (3.18)

となる.
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Yuta 平成22年1月23日