next up previous contents
: 参考文献 : 応力に関する補足 : 連続体のつり合い   目次

応力テンソルの対称性

次に,トルクの合計が0になる条件を導く.連続体のある領域$ V$(その表面を$ S$とする)において,領域表面にはたらく応力 $ T_i(\bm{n})$のトルクと,領域にはたらく体積力$ \bm{K}$のトルクがつり合うとき,

$\displaystyle \int_{S}(\bm{r}\times (\tau_{ij}n_j))dS + \int_{V}\bm{r}\times \bm{K}dV = 0 $ (A..47)

を満たす.なお,直交座標系を使うとして添え字の上下には配慮しないものとする.また,外積はテンソルで表記すれば,

$\displaystyle \bm{a} \times \bm{b} = \epsilon_{ijk}a_{j}b_{k}
$

となる.ここで, $ \varepsilon_{ijk}$はレヴィ・チヴィタ(Levi-Civita)の記号であり,

$\displaystyle \varepsilon_{ijk} = \begin{cases}+1    ((i,j,k) \in \{ (1,2,3)...
...j,k) \in \{ (1,3,2),(3,2,1),(2,1,3) \} ) ; \cr 0     (otherwise)\end{cases}$

と定義される.これを用いれば,(付録A.4)は,

$\displaystyle \int_{S}(\varepsilon_{ijk}x_{j}\tau_{kl}n_l))dS + \int_{V}(\varepsilon_{ijk}x_{j}K_{k})dV = 0$ (A..48)

となる.

付録A.5)の第1項は発散の定理により,

$\displaystyle \int_{S}(\varepsilon_{ijk}x_{j}\tau_{kl}n_l))dS$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \int_{V}\dfrac{\partial}{\partial x_l} (\varepsilon_{ijk}x_{j}\tau_{kl})dV$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \int_{V} \varepsilon_{ijk}(\tau_{kl} \dfrac{\partial x_{j}}{\partial x_{l}} + x_{j}\dfrac{\partial \tau_{kl}}{\partial x_{l}})dV$  
  $\displaystyle =$ $\displaystyle \int_{V} \varepsilon_{ijk}(\tau_{kl}\delta_{jl} + x_{j}\dfrac{\partial \tau_{kl}}{\partial x_{l}})dV$  

となる.ここで $ \delta _{jl}$はクロネッカーのデルタ(Kronecker delta)であり,$ j = l$のとき0で$ j \neq l$のとき1である.

よって(付録A.5)は,

$\displaystyle \int_{V} \varepsilon_{ijk}(\tau_{kl}\delta_{jl} + x_{j} (\dfrac{\partial \tau_{kl}}{\partial x_{l}} + K_{k}))dV=0$    

となる.また,つり合いの式(付録A.3)より積分内の第2項は0であるので,結局

$\displaystyle \int_{V} (\varepsilon_{ijk}\tau_{kl}\delta_{jl})dV=0
$

となる.ここで領域$ V$は任意に選ぶことができるので,上式が恒等的に成り立つためには,

$\displaystyle \varepsilon_{ijk}\tau_{kl}\delta{jl} = 0
$

を満たさなければならない.したがって,モーメントの合計が$ 0$であるという物理的な制約は,応力テンソルが対称テンソルであること,すなわち

$\displaystyle \tau_{ij} = \tau_{ji}
$

を要請する.



Yuta 平成22年1月23日