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: 変形速度と応力の関係 : 運動している流体と応力テンソル : 運動している流体と応力テンソル   目次

流体の局所的運動と変形

ある流体要素の中心Pの位置ベクトルを$ \bm{r}$,その流体要素の他の任意の点Qの位置ベクトルを $ \bm{r}+\delta \bm{r}$とする.このとき,相対速度 $ \delta \bm{u} = \bm{u}(\bm{r} + \delta \bm{r}) - \bm{u}(\bm{r})$を調べることによって,変形の様子を知ることができる. $ \bm{u}(\bm{r} + \delta \bm{r})$$ \bm{r}$まわりでテイラー展開して,微少量 $ \vert\delta \bm{r}\vert$の2次以上の項を無視すると,
$\displaystyle \bm{u}(\bm{r} + \delta \bm{r}) = \bm{u}(\bm{r})$ $\displaystyle +$ $\displaystyle \dfrac{\partial u}{\partial x}\delta x \bm{i}+ \dfrac{\partial u}{\partial y}\delta y \bm{i} + \dfrac{\partial u}{\partial z}\delta z \bm{i} \cr$ (3.23)

となる.

図 2.7: $ x$方向の一様な伸び( $ \partial u /\partial x > 0$)
Image fig2_7
図 2.8: $ x$方向のずれ運動( $ \partial u /\partial y > 0$)
Image fig2_8
$ \partial u /\partial x$等の微分係数は点Pにおける値である.第1項の $ \bm{u}(\bm{r})$は,その流体要素の全体としての剛体的な並進運動を表す.残り9項の合成が点Qの点Pに対する相対運動を表す. $ (\partial u /\partial x)\delta x \bm{i}$で表される運動は,$ x$軸方向を向き,$ yz$面からの距離$ \delta x$に比例するようなもの,すなわち, $ \partial u /\partial x$が正(負)ならば,$ x$方向に一様な伸び(縮み)を表す(図2.7).同様に, $ (\partial v /\partial y)\delta y \bm{j}$および $ (\partial w /\partial z)\delta z \bm{k}$はそれぞれ$ y$方向,$ z$方向の一様な伸びあるいは縮みを表している.

一方, $ (\partial u /\partial y)\delta y \bm{i}$$ x$方向の運動であるが,その速度の大きさは$ \delta y$に比例する.これは図2.8のような$ xz$平面に平行な平面の$ x$方向のずれ運動あるいはせん断運動を表す.残りの他の項についても同様である.

相対速度をテンソル表記で書けば,

$\displaystyle \delta u_{i} = \dfrac{\partial u_{i}}{\partial x_{j}} \delta x_{j}$ (3.24)

となる.行列 $ \partial u_{i} / \partial x_{j}$は2階テンソルであって,速度勾配テンソル(velocity gradient tensor)と呼ばれる.ここで,速度勾配テンソルを対称テンソルと反対称テンソルに分解することを考える.すなわち,

$\displaystyle e_{ij} = \dfrac{1}{2} (\dfrac{\partial u_{i}}{\partial x_{j}} + \...
...frac{\partial u_{i}}{\partial x_{j}} - \dfrac{\partial u_{j}}{\partial x_{i}})
$

とすると,

$\displaystyle \delta u_{i} = e_{ij}\delta x_{j} + \Omega_{ij}\delta x_{j}$ (3.25)

となる.これにより,相対速度への寄与を対称テンソルによるものと反対称テンソルによるものとに分割することができる.

反対称テンソル $ \Omega_{ij}$については,速度場$ \bm{u}$回転(rotation)として知られているベクトル場 $ \bm{\omega} = \nabla \times \bm{u}$の成分 $ (\xi,\eta,\zeta)$を用いることによって

\begin{displaymath}
(\Omega_{ij}) = \left(
\begin{array}{ccc}
0 & -\zeta & \eta \\
\zeta & 0 & -\xi \\
-\eta & \xi & 0
\end{array}\right)
\end{displaymath}

と表される. ベクトル $ \bm{\omega}$渦度(vorticity)と呼ばれる.

$ \bm{e}_{i}$を(2.25)にかけて$ i$について加えれば,

$\displaystyle \delta \bm{u} = \delta u_{i} \bm{e}_{i} = e_{ij}\delta x_{j} \bm{e}_{i} + \Omega_{ij}\delta x_{j} \bm{e}_{i}
$

となるが,ここで
$\displaystyle \Omega_{ij}\delta x_{j} \bm{e}_{i}$ $\displaystyle =$ $\displaystyle (\Omega_{12}\delta x_{2} + \Omega_{13}\delta x_{3})\bm{e}_{1} + (...
...)\bm{e}_{2} + (\Omega_{31}\delta x_{1} + \Omega_{32}\delta x_{2})\bm{e}_{3} \cr$  

なので,
$\displaystyle \delta \bm{u} =$ $\displaystyle e_{11}$ $\displaystyle \delta x \bm{i} + e_{22}\delta y \bm{j} + e_{33}\delta z \bm{k} \cr$ (3.26)

を得る.(2.26)の1行目は,座標軸方向の一様な伸び(あるいは縮み)に対応する.2行目の $ e_{12}(\delta x\bm {j} + \delta y\bm {i})$は,図2.7のような$ x$軸と$ y$軸のなす角が単位時間当たり$ 2e_{12}$だけ減少する,正方形がひし形にひしゃげるような純粋なずれ運動に対応する.2行目の残りの項も同様である.一方,3行目は角速度(angular velocity) $ \bm{\omega}/2$剛体的回転(rigid body rotation)による速度場を表している.

図 2.9: $ e_{12}(\delta x\bm {j} + \delta y\bm {i})$に対応する純粋な変形運動
Image fig2_9
このように$ e_{ij}$は流体要素の変形の速度(割合)を表すので,変形速度テンソルあるいはひずみ率テンソル(rate-of-strain tensor)と呼ばれる.このテンソルは対称テンソルであるので,座標軸を主軸座標系に変換すれば,

$\displaystyle {\rm\; diag}(e^{\prime}_{1},   e^{\prime}_{2},   e^{\prime}_{3}) $ (3.27)

の形に帰着できる.つまり,流体要素の変形は対称テンソルの主軸方向の一様な伸びまたは縮みのみによって表されることになる.また,対角成分の和

$\displaystyle e^{\prime}_{1} + e^{\prime}_{2} + e^{\prime}_{3} = e_{ii} = \nabla \cdot \bm{u}
$ (3.28)

は,後に述べるが流体要素の体積膨張率である.応力テンソルのときと同様に(2.27)を等方テンソルとそのずれに分解すると,

$\displaystyle {\rm\; diag}(\dfrac{1}{3}e_{ii},   \dfrac{1}{3}e_{ii},   \dfrac...
...e^{\prime}_{2} - \dfrac{1}{3}e_{ii},   e^{\prime}_{3} - \dfrac{1}{3}e_{ii}) 
$

となる.前者は等方的な(2.28)に対応する膨張あるいは収縮であり,後者は体積変化を伴わない球を楕円体にひしゃげるような純粋な変形運動に対応する.

以上より微小な流体要素の運動は,次のような運動を同時に行っているといえる.

  1. 中心における流速$ \bm{u}$での全体としての剛体的並進運動.
  2. 角速度 $ \bm{\omega}/2$の剛体的回転(自転)
  3. 球を楕円体にひしゃげるような体積変化を伴わない純粋な変形運動
  4. $ \nabla \cdot \bm{u}$の割合での等方的な膨張(あるいは収縮)運動
(2)は反対称テンソル $ \Omega_{ij}$からくる.一方,変形運動(3),(4)は対称テンソル$ e_{ij}$からくる.また,(1),(2)は剛体的運動であり,(3),(4)は変形体特有の運動である.密度一定の完全流体おける渦なし流れ( $ \bm{\omega} = 0$の流れ)では, $ \nabla \cdot \bm{u} = 0$なので,流体要素は並進しながら純粋な変形運動(3)のみを行うことになる.
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Yuta 平成22年1月23日